MSXを含む日本におけるコンピュータ受容史の論文 (2022年)

2022年、京都大学大学院文学研究科の鈴木真奈氏による博士論文「1970年代後半期から1980年代前半期までの日本における個人を対象とするコンピュータとユーザの関係」が発表された。

この論文のテーマは、日本社会においてコンピュータがどのように一般の人々に受容されていったかを歴史的なアプローチによって記述することにある。

とくにMSXについては、1章をまるごと費やして述べられている。以下、論文内容の要旨から引用する。

 

第三章のテーマとなるのは1980年代前半の家庭におけるコンピュータのあり方を象徴するパソコンとしてのMSX、特に1983年に発表された初代MSXである。

MSXはファミコンとの競争に敗れたビデオゲーム用パソコンといったイメージで語られることがあるが、本来は統一規格に基づく家庭用の汎用コンピュータとなることを意図して開発されたものだった。

本章ではMSX Magazineをはじめとした同時代資料を用いて、MSXに参入した企業ごとのMSXの開発方針やハードウェアの違い、具体的にどのようなソフトウェアが開発されたかを明らかにしている。

参入企業の中でも、規格の統一性を重視する企業と、自社製品との連携を強めるなどの拡張性を重視する企業の間で温度差があったことや、ハードウェアメーカー側がMSXをゲームコンピュータとして位置づけていなかったにも関わらずソフトウェアメーカーは当初からゲームソフトに重点を置き、実際に発売されたソフトウェアの大半がゲームソフトだったというイメージの齟齬があったことなどが当時の雑誌記事から浮かび上がる。

 

本論文で指摘されている通り、MSXの開発者側が「ホームコンピュータ」を意識していたのに対し、ユーザ側の多くは「ゲーム機」を意識していたことのミスマッチは当時から存在していた。また、現在でもコンピュータの歴史を語る言説では「MSX=ゲーム機」という捉え方をしているものが多く、このミスマッチは40年を経た今でも強く横たわっている。

このミスマッチについて、筆者はMSX以外の機種にも存在していたことを指摘し、コンピュータに対する「受容」という切り口を提示した。

MSXの誕生から40年が経過し、開発側・ユーザ側がそれぞれ自らの体験を語る機会も増えてきたが、そろそろ歴史学的な観点からのアプローチも必要であろう。個人の体験や記憶は必ずしも正しいとは限らず、当時の資料を丹念に掘り起こすことが求められる。その意味でも、本論文が提示したテーマは意義が大きいものであり、今後同様の研究がさらに発展していくことを期待する。

 

●著者のWebサイト

1970年代後半期から1980年代前半期までの日本における個人を対象とするコンピュータとユーザの関係 | Suzuki Mana (www2.jp)

●論文はこちらから

Kyoto University Research Information Repository: 1970年代後半期から1980年代前半期までの日本における個人を対象とするコンピュータとユーザの関係 (kyoto-u.ac.jp)

 

なお、この論文には『MSXマガジン永久保存版』や『MSX30周年: 愛されつづけるMSXの歴史と未来』などが引用元として使われている。我々が作成した文章が論文に使用されるのは光栄であるとともに、ちょっぴり恥ずかしい?

MSXマガジン永久保存版 (2002年) | MSX40周年イベント(仮称) official website (msx40th.org)

週刊アスキー・ワンテーマ MSX30周年:愛されつづけるMSXの歴史と未来 (2013年) | MSX40周年イベント(仮称) official website (msx40th.org)

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